相続税の税務調査に関する基礎知識|調査となる対象者と注意すべきケース

相続の手続きをしていると、相続税が気になる方も多いのではないでしょうか?

もし、間違った申告をしていて「税務調査」が入ってしまったら…そんな不安を抱いている方も多いはずです。そこで今回は、相続税の税務調査に関する基礎知識と調査の対象者、注意すべきケースについて詳しく解説していきます。

 

相続税の税務調査とは

相続税の申告を間違えていたり、そもそも隠蔽などを理由に申告自体していなかったりする疑いがある場合、税務署職員が相続人に対して税務調査を行うことがあります。

そもそも相続税というのは、自分で計算して納税しなければならない、「申告納税方式」を取っています。それゆえ、計算を間違えていたり、隠蔽によって少なく申告することも可能という現実があります。税務調査は、こうした申告を是正するために行われています。

調査内容

具体的な税務調査の内容としては、主に以下のとおりです。

  • ・預貯金の動きについて
  • ・保有している不動産について
  • ・保有している有価証券について
  • ・生命保険金などについて

そして、税務調査には「任意調査」と「強制捜査」の2種類があります。

任意調査

任意調査は、調査対象者となる相続人に税務署から事前連絡が入り、日時を決めた上で行われる調査です。一般的には、被相続人(亡くなった方)が最後に住んでいた住所にて行われることが多くなっています。また、可能であれば相続人は全員集められるように指示され、当日は税務署職員からの質問に相続人が回答する形式で調査が進められます。

必要に応じて、通帳や不動産といった相続財産に関する資料の提示を求められます。原則的には資料の提示を求められるのみで、関係資料をあさられたりする心配はありません。

ただし、「任意」となっているものの、実際は断ることができないものとなっています。

強制調査

任意調査に応じなかった場合や、資料の提示を断ったり、悪質な脱税行為が疑われるような場合は、強制調査が行われることになります。こちらも当然断ることはできないばかりか、事前連絡なしに税務署の調査員が訪ねてきます。とはいえ、現実に強制調査にまで発展するケースは非常に稀で、ほとんどのケースは任意調査で完了となっています。

 

調査される割合

相続税の税務調査が入る割合としては、おおまかに2割程度となっています。

そもそも税務調査というのは、相続税だけに限らず、贈与税、所得税、法人税といった様々な申告納税方式の税金に対して行われます。その中でも、相続税については調査が入る確率が高いのですが、それでも2割程度となっています。調査が入る確率が高い理由としては、相続税の申告自体、人生の中でそう何度も経験するものではないため、過少申告になっているケースが多いためです。また、申告の存在自体知らない方も多く、申告漏れを指摘するために税務調査が入るといったケースも多くなっています。

税務調査の対象者に関する選定

税務署は、日頃から税務調査の対象を選定するために、富裕層をまとめた独自のリストを作成しています。そのため、高額な動産や不動産の取引、株式の履歴、給与や賞与のデータについては、基本的に税務署側にはあらかじめ把握されていると考えておきましょう。

税務調査に選ばれる理由

税務署には上述したような独自のリストがあるため、対象者方が亡くなった際は、当然ながら相続状況についてもチェックをしています。もちろん税務署が作成している独自リストを見る方法はありませんが、相続税の申告が必要になるほどの相続財産がある時点で、税務調査が入る可能性については視野に入れておく必要があります。

財産額について(いくらから対象となるか)

いくら以上から税務調査が入りやすくなるといった具体的な線引きはできませんが、大まかに2億円以上を超えてくると、税務調査が入る可能性が高くなるようです。

これだけの金額となってくると、現実問題として計算ミスや見逃しも増えてきますし、節税対策そのものが隠蔽工作と取られる可能性も高くなってきます。

調査対象となりやすい財産

調査対象となりやすいのは、高額資産はすべて対象と言えますが、その中でもやはり現金や有価証券といった金融資産が多い方は対象になりやすい傾向があります。理由としては、実物資産は一度換価が必要になりますが、金融資産は即座に納税可能となっています。税務調査は取りやすいところから取る、追加徴税が多いところから取る、といった傾向があります。税務署職員にノルマがあるわけではありませんが、成績が良いほど出世しやすいようです。

調査になる可能性のあるケース別解説

それでは、実際に調査対象になる可能性のあるケースについて解説していきます。

①申告書上での不備

相続税の申告書上で不備がある場合、税務調査が入る可能性が高くなります。たとえば、計算ミス、記載ミス、添付書類不足などが挙がります。とはいえ、あくまでも過少申告であった場合に限っていて、多く申告していた場合は特に調査は入りません。

もちろん相続人側のミスであればスムーズに手続きは進みますが、意図した不備であった場合、悪質と判断される危険もあるため注意しましょう。

②相続財産に預貯金・現金が多い

前述したように、相続財産に預貯金・現金といった金融資産が多い場合は、やはり調査対象になりやすいです。また、単に金額が大きいだけでなく、不自然な出金や入金を繰り返している場合も調査対象になります。特に預貯金というのは、履歴で簡単にお金の流れを把握できるため、申告漏れを指摘しやすくなっています。また、被相続人が行っていた貸付金については、返済前であっても相続財産の債権とみなされるため、しっかり申告をしていないと追加徴税を課されることになるため注意しましょう。

③名義預金や暦年贈与が多くある

名義預金とは、被相続人が別名義で開設した口座のことです。たとえば、配偶者や子ども、孫のために被相続人が作成し、実際の運用も被相続人が行っている口座です。名義は異なりますが、被相続人が自由に入出金できる以上、相続財産とみなされることになります。

暦年贈与とは、贈与税の基礎控除を利用した節税対策の1つです。生前贈与は年間110万円までなら非課税となっているのですが、これが長期間行われている場合、はじめから多額の贈与をするつもりだったと判断され、一括贈与と同じ課税をされることがあります。

こうした、名義預金や暦年贈与が多くある場合、税務調査の対象となりやすいです。

④海外資産が多い

相続財産の中に海外資産が多い場合も、税務調査の対象となる可能性が高いです。

昨今では、資産運用の一環として海外に投資する方も増えてきました。それゆえ、税務署も海外の資産の把握に注力している現実があります。基本的に海外送金については税務署側も把握しているため、申告内容と違いがあれば税務調査が入ることになります。

相続に関するトラブルは弁護士にご相談ください

相続税というのは、そもそも課税対象になっていない方がほとんどではありますが、申告が必要な方にとっては、税務調査を意識しないわけにはいきません。とはいえ、相続自体はじめての経験という方も多く、自身に相続税がかかるのかわからない方も多いのが現実です。そこで、もし相続に関するトラブルにお悩みの方は、弁護士への相談を検討してください。当事務所は相続問題にも注力しています。相続に関するお悩み、お困りごと等がございましたら、是非お気軽にご相談いただければ幸いです。

 






    この記事の監修者

    監修者:西村啓聡

    弁護士法人西村綜合法律事務所 代表弁護士

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    注力分野

    岡山エリアでの相続分野(遺産分割・遺留分侵害額請求など多数の相談実績)

    経歴

    東京都内の法律事務所での勤務を経て、岡山県に弁護士法人西村綜合法律事務所を創立。県内を中心に年間約80件の相談を受けており、岡山エリアの相続に強い弁護士として活動。地域に根ざし皆様の拠り所となれるような法律事務所を目指している。