遺産に農地が含まれていたら?相続トラブルを避けるポイントを弁護士の視点から解説
農地というのは、他の土地と比較すると取り扱いが難しくなっています。
基本的には、農地は勝手に売却・購入といったことができず、仮に相続して売却する場合でも、農業委員会という組織を通じて、手続きをしなければならないと定められています。
また、農地を相続したため親が営んでいた農業を継承しようと考えている方、そもそも農業を継承する気はないという方も、手続きの煩雑さに困っているのではないでしょうか?
そこで今回は、ケース別で見る農地・農業の相続問題について弁護士が解説していきます。
目次
農地を相続した場合の対処法
まずは、農地を相続した場合の対処法についてご紹介します。
農業委員会への届出
相続によって農地の所有者が変わった場合は、農業委員会に届出をしなければなりません。
農業委員会とは、法律によって定められた組織で、各市町村に設置されています。
主な業務として、農業に関する事務を担当しています。そもそも農地というのは、食料の供給に直接関わる分野であるため、農業委員会が農地の使用状況や、宅地等への転用を監視・抑制を担当しています。
もし、相続した旨を農業委員会に届出をしなかった場合は、10万円以下の過料という罰則規定があります。また、届出は自身に相続があったことを知った日(被相続人の死亡を知った日)から10ヶ月以内に行わなければなりません。
なお、農業委員会へ相続の届出を提出する際は、後述する法務局での相続登記手続きを終え、所有権の変更がわかる不動産登記簿謄本等、相続が確認できる書面の添付が求められます。
このように、農地の相続は全く知識がない状態で進めるにはハードルが高く、弁護士への相談がおすすめと言えるでしょう。
法務局での登記
相続によって農地を相続した場合は、法務局にて相続登記(所有権移転登記)をしなければなりません。
冒頭でも触れたように、農地というのは農業委員会の許可がなければ売買することができず、登記申請を受け付けてもらうことができません。しかし、農地の相続登記の場合は、農業委員会の許可がなくても登記申請を受け付けてもらうことができます。
なお、通常の相続登記と同様、農地を相続した場合も、「登録免許税」を納めなければなりません。登録免許税の金額は、固定資産税評価額×0.4%となっています。
また、登記申請にあたっては、被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本、被相続人の住民票の除票、相続人が確定できるだけの戸籍謄本などを提出する必要があります。
相続が遺言によって行われた場合は、検認済みの遺言書、公正証書遺言等が必要となりますし、遺産分割によって行われた場合は、遺産分割協議書の添付が必要となっています。
農業を続ける場合
引き続き農業を続けたいという方は、農地にかかる部分の相続税が猶予される制度があるため、積極的に利用していきましょう。
農地の納税猶予の特例
農地の納税猶予の特例は、農地を引き継いだ相続人がそのまま継続して農業をする場合に利用可能な制度です。適用条件は少し複雑となっているため、利用を検討されている方は、弁護士に相談することを強く推奨します。
参考:国税庁のHP→https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4147.htm
なお、農地の納税猶予の特例を受けたい場合は、相続税の申告書に所定の事項を記入、特例の適用条件を満たしていることがわかるだけの書面を添付し、相続税の申告期限内(自身に相続があることを知ってから10カ月以内)に提出しなければなりません。
ただし、納税猶予の期間中に農地を譲渡したり、農業の継続届出を提出しなかったりした場合は、猶予されていた相続税に加え、猶予期間に応じた利子税を納めなければなりません。
農業を続けていくのであれば、最終的に相続税が免除されますが、利用条件が複雑であることと、ペナルティが課されるリスクもあるため、利用は慎重に検討しましょう。
農業を続けない場合
農業を続ける気がないという方は、農地を売却や転用などによってうまく活用するか、そもそも相続するのかどうかといった問題と向き合う必要があります。
売却する
相続した農地を、農地として売却するという選択肢があります。
しかし、農地のまま売却するためには、農業委員会の許可が必要であるだけでなく、買い手を探す必要があります。後述する、農地を転用して売却するケースと比較すると、買い手が付きにくい上に希望価格で売れない可能性が高いため、そのまま売却するのは少しハードルが高くなります。
転用する
相続した農地を宅地などに転用することで、自宅を建てたり、賃貸用物件を建築したりといった選択肢があります。
また、転用することで、住宅用地として売却することができるため、農地のまま売却するよりはるかに買い手が付きやすくなります。
ただし、農地以外に転用する場合は、農業委員会の許可を得る必要がある点に注意が必要です。すべての土地が農業委員会からの許可を得られるわけではありません。
相続放棄する
売却や転用が難しく、農業を続ける気もないという方は、最終的には相続放棄という方法があります。
しかし、相続放棄は自身に相続があったことを知った日から3ヶ月以内に行わなければならない他、その他の相続財産もすべて相続できなくなってしまうというデメリットがあります。
農地だけを相続放棄するという方法はないため、その他の相続財産の状況と天秤にかけながら、慎重に判断するようにしてください。
遺産の中に「農地」がある場合の遺産分割の問題点
遺産の中に「農地」がある場合、農業を誰も引き継ぎたくないと考えていると遺産分割協議がまとまりません。
その理由の1つが農地の評価額についてです。相続財産のほとんどが農地である場合、その評価額と相続人が実際に受け取る額面との間に差が生じやすく、不満が生まれやすくなっています。また、農地というのは場所によっては価値が高く、相続税が高額になってしまう恐れもあることから、農地の評価については非常に重要です。
農地が田舎にある場合の評価について
農地は、純農地、中間農地、市街地周辺農地、市街地農地の4種類に分類されます。
そして、比較的田舎にある純農地、中間農地の評価は、「評価倍率方式」による評価方法を用います。
- ①純農地(農業地区域内の農地や、第一種農地、甲種のうちに該当する農地)
- ②中間農地(第二種農地や、それに準ずる農地)
農地が住宅地近くにある場合の評価について
農地が住宅地近くにある場合の評価は、市街地農地は「宅地批准方式または評価倍率方式」、市街地周辺農地は「市街地農地だった場合の80%相当額」にて評価されます。
- ③市街地農地(第三種農地や、それに準ずる農地)
- ④市街地農地(転用許可を受けた農地、市街地区域内にある農地、転用許可を要しない農地として都道府県知事の許可を受けている農地)
なお、各地の評価倍率は、国税庁の「評価倍率表」を使って確認することができます。
参考:国税庁のHP→https://www.rosenka.nta.go.jp/index.htm
農地・農業の相続問題については西村綜合法律事務所にご相談ください
農地・農業の相続というのは、一般的な宅地などの相続とは異なり、相続人への負担が大きいものとなっています。
可能であれば、被相続人が亡くなる前から、農地・農業の相続について検討しておくのが理想的です。もし、将来的に農地・農業の相続を控えているという方は、比較的早い段階で弁護士に相談することをおすすめします。また、すでに農地・農業の相続問題に悩まされているという方も、決して手遅れといったことはありませんので、弁護士への相談をご検討ください。
当事務所においても、農地・農業の相続問題に関する案件を多数取り扱っております。お困りの際は、ぜひお気軽にご相談いただけますと幸いです。