遺言の要件って?無効になるケースや遺言無効を主張する流れについて解説
遺言書は有効な相続対策ですが、正しい知識を持って作成しないと、遺言書自体が無効になってしまう場合もあります。せっかく作成する遺言書を無駄にしないためにも、遺言についての要件および無効になるパターンおよび逆に無効にしたい時の動き方について解説いたします。
目次
遺言の要件
遺言には,自筆証書遺言,公正証書遺言,秘密証書遺言の3つが存在します。
遺言が有効になるためにすべての遺言について必要な要件として,遺言を作成した人に遺言能力があることが挙げられます。
また,それぞれの方式について民法で要件が定められています。
意思能力と遺言能力
遺言能力とは,「遺言内容を理解し,遺言の結果を弁識するに足りる意思能力」と定義され,民法では,満15歳に達したものは遺言をすることができると規定しています(民法961条)。
遺言能力の判断にあたっては、下記の3つの事情から判断されます。
- ①精神医学的観点
- ②遺言内容
- ③その他諸事情(遺言の動機,作成経緯,遺言者と相続人・受遺者との人的関係)
特に,①が判断の中核になります。
民法で規定された形式的要件
すでに述べたように,遺言の方式として3つの方式が定められています。そして,それぞれの方式について,要件が定められています。
自筆証書遺言
自筆証書遺言の要件は,
- ①遺言の全文が自署であること
- ②日付が自署であること
- ③氏名が自署であること
- ④押印がなされていること
- ⑤加除その他変更を加える場合には変更した場所を指示し,これを変更した旨を付記して署名し,変更場所に印を押すこと
の5点です。
公正証書遺言
公正証書遺言の要件は,
- ①証人2人以上の立会いがあること
- ②遺言者が遺言尾趣旨を公証人に口授すること③公証人が遺言者の口述を筆記し,読み聞かせ,又は閲覧させること
- ④遺言者及び証人が筆記の正確なことを承認し,署名押印すること
の4点です。
秘密証書遺言
秘密証書遺言の要件は
- ①遺言者が遺言を作成し、その遺言書に署名・押印をすること
- ②遺言者が、その遺言を封筒に入れ、遺言で用いた印で封印をすること
- ③遺言者が、公証人と証人2人以上の前に封筒を提出し、自己の遺言であることと氏名住所を申述すること
- ④公証人が、その遺言に提出した日付及び、遺言の申述(自己の遺言であること及び氏名住所)を封筒に記載し、公証人、証人、遺言作成者本人が封筒に署名押印をすること
の4点です。
西村綜合法律事務所の遺言作成費用
料金 | |
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自筆証書遺言 | 11万円~ |
公正証書遺言 | 16万5,000円~ |
立会日当 | 3万3,000円 |
相続に関する弁護士費用はこちらのページでご覧いただけます。
遺言が無効になる場合
以上のことを前提に,遺言が無効になる具体例を紹介します。
⑴遺言能力の欠如
遺言書作成当時,遺言者が認知症であったような場合に遺言能力が否定されることがあります。
認知症を患っていたからといって直ちに遺言能力が否定されるわけではありませんが,遺言書を書いた時期によっては、その遺言書が本当に本人の正常な意思で書かれたものかどうか疑問をもたれる可能性が出てきます。
相続財産を取得しようとする者が,認知症の被相続人をそそのかして遺言書を書かせた可能性も考えられます。
遺言の作成を考えている方は,遺言能力の欠如を理由に死後,親族間で紛争が起きないようにするためにも,十分判断能力がある段階で遺言を作成したり,判断能力が低下していると懸念される場合は,公正証書遺言を作成したり,遺言作成風景を動画撮影し証拠化するなどの工夫が必要です。
⑵方式違反
公正証書遺言や秘密証書遺言では公証人が作成に関与するため,方式違反は生じにくいと思われるので,ここでは自筆証書遺言を作成する場合に限定して具体例を紹介します。
①遺言書に日付がない
自筆証書遺言には日付を記載する必要がありますが,自分自身で遺言書を書くと遺言書に日付を書き忘れる人が多くいます。
作成日付を自署で記載することは,自筆証書遺言の要件なので,必ず記入をする必要があります。
法が日付の記載を要求しているのは,遺言書作成日を特定するためです。そのため,日付は年月日で記載をしなくとも,例えば「還暦の日」「令和●年元日」などでも問題ありません。ただし、「○年○月吉日」と記載した場合,これでは日時が特定できないため遺言書は無効となります。
②パソコンで遺言を作成した場合
すでに述べた通り,自筆証書遺言は本人が全文を直筆で書くことが要件です。そのため,パソコンのワードなどで作成して印刷したものはすべて無効となります。
仮に,パソコンで打ち出し印刷した遺言書本文に署名押印したとしても同様に無効となります。
もっとも,秘密証書遺言の場合は,ワープロで打ち出した遺言書を公証役場に持ち込んで所定の手続を経て作成することも可能です。
③遺言の内容が不明確な場合
遺言書はそれにより相続財産の名義変更手続を行います。そのため,どのように財産を分割するのかを記載する際には、どの財産の事を指しているのかを誰が見ても明らかと言えるように記載する必要があります。
不動産であれば,事前に登記情報を取り寄せて登記簿に記録されている所在、地番、地目、地積、家屋番号、構造、床面積などを正確に記載する必要があります。
「自宅不動産を長男に相続させる」といった記載では対象不動産が特定されず無効となる可能性があります。
また,不動産の地番と住所表記は異なるので,通常の住所表記で遺言を書いてしまうと対象不動産を特定できず無効になることもあります。
④遺言の修正手続きのミス
遺言書の作成中,書き間違いをしてしまった場合,注意が必要です。普段作成している書面であれば,書き間違えた部分を修正液で消したり,単に二重線を引いて書き直すといった方法で対処してしまいがちです。しかし,自筆証書遺言の場合はそのような修正方法では効力が生じません。遺言書を書き間違えた際の加除(加筆・修正)については、一般的な文書の訂正よりも非常に厳格なことが法律で要求されています。
具体的には,
①変更した場所を指示する
②変更した旨を付記して署名する
③変更場所に印を押すこと
が必要となります。
たとえば,遺言書5行目の「財産を長男 山田太郎に相続させる」という部分を「財産を次男 山田次郎に相続させる」というように修正する場合,まず「長男」「二郎」の字に二重線を引いて横にそれぞれ「次男」「二郎」と記載し押印する必要があります。そして,遺言書の末尾や空きスペースなどに「五行目四文字削除し四文字追加した」と追記の上,自署する必要があります。
上記手続きのうち,一つでもミスがあれば加除の効力が生じません。
遺言書の修正手続きのミスで遺言が無効になることを避けるため,遺言作成中に記載ミスをした場合は,最初から書き直す方が安全だと言えます。
遺言無効の争い方
被相続人が死亡し,自筆証書遺言が出てきたが,生前の被相続人の様子から到底あり得ない内容であった場合,どのように遺言の効力を争っていけばよいでしょうか。
遺言の効力の争い方としては
①遺言無効確認調停
②遺言無効確認訴訟
があります。
①遺言無効確認調停
遺言無効確認調停は,家庭裁判所において,遺言の効力について争っている当事者同士で話し合いを行う手続きです。
次で説明する遺言無効確認訴訟を起こすためには,事前に調停を行う必要があるため,話し合いの余地がほとんどない場合であっても形式的に調停を申立てることになります。
遺言無効確認調停が成立しなければ,遺言無効確認訴訟の手続きに進むことになります。
②遺言無効確認訴訟
遺言無効確認訴訟とは,裁判所において遺言の効力を争う裁判です。調停とは異なり話し合いではないので,双方が証拠を出し合い,遺言の効力について裁判所に判断してもらう事になります。
必要な資料
遺言無効確認訴訟では,証拠により遺言の効力を争う事になります。
その際,参考となる資料としては,次のとおりです。
自筆証書遺言を第三者が偽造したと考えられる場合には,自筆証書遺言遺言以外の被相続人自筆の書類,筆跡鑑定書が参考になります。
遺言能力の欠如が考えられる場合には,診療録・カルテ・看護記録といった医療記録や,介護認定記録,介護録等が参考になります。
また,被相続人と相続財産を受け取る人との生前の関係性を基礎づける日記やメモも「被相続人がそのような遺言を作成するはずがない」と推測させる証拠として有効です。