農地は相続放棄すべき?転用や相続税についても弁護士が徹底解説
農地を相続する場合,通常の土地の相続とは異なる手続きが必要になります。したがって,農地を相続する場合には通常の相続よりも注意が必要です。
ちなみに,「農地」とは,とは、農地法上、「耕作の目的に供される土地」のことをいいます(農地法2条)。そして、通達によると、「耕作」とは、「土地に労費を加え肥培管理を行った作物を栽培すること」とされています。
一般的に,登記簿上「田」「畑」との記載があった場合,その記載をもって当該土地が「農地」であると考えるかもしれません。しかし,農地とは上記のような土地を指すため,登記簿の記載のみからは判断することはできません。
目次
1、農地の相続が発生する場合
農地の相続が発生する場合として考えられるのは,
⑴実際に農地で農業を営んでいる農家の方がお亡くなりになった場合,
⑵農地自体は所有しているが,所有者本人は農業を営んでおらず,第三者に農地を貸している地主の方がお亡くなりなった場合
が考えられます。
2、相続した農地をそのまま農地として利用する場合
農地は,農業経営のための営業財産であるため,被相続人に後継者がおり,また被相続人が亡くなった時点で農地を利用して農業を営んでいる人がいる場合,同後継者または農地を利用する相続人に農地を取得させるよう配慮することが望ましく,遺産分割においてもその点が考慮されるべきです。
具体的には,農地は農業経営者が単独取得し,農地以外の遺産を非農場経営者に取得させることが基本となります。
これによって共同相続人間に不均衡が生じる場合は,農地取得者が他の相続人に対し代償金を支払うか,債務を負担し割賦払いをする等の方法が考えられます。
他にも,農地を各相続人尾共有としたうえで,農業の経営はそのうちの1人に承継させ,この承継者が他の相続人に対し各持分に相当する配当金を支払う方法も考えられます。しかし,この方法は,将来の法律関係が不安定になるリスクがあります。
遺産分割の協議においてもめることが予想される場合には,被相続人が生前に遺言を作成し,農地の承継者を決めておくことが望ましいです。
3、相続した農地を農地として使用しない場合
被相続人が農地を所有していたが,相続人の方が現在の生活状況や農業のノウハウを持っていないなどの理由で被相続人死亡後,農地を用いて農業を行う予定がない場合も十分考えられます。
そのような場合,①そもそも農地の相続を放棄する,②農地を駐車場や賃貸アパート等に転用をする,③農地を売却もしくは貸し出すといった方法が考えられます。
(1)相続放棄をするケース
第一に考えられるのが,農地を放棄するケースです。
相続放棄すれば農地を相続することなくなります。しかし,農地のみを相続放棄するということはできないので,相続放棄すると農地だけではなく、その他の財産もすべて相続できなくなります。
そのため,被相続人が農地以外に価値のある遺産(自宅や預貯金など)を有していた場合,それらの財産も手放すことになります。
また,相続放棄をすることができる期間も決まっており,基本的に「相続開始を知ってから3か月以内」となります。
農地を相続しようか迷っている間に相続放棄の期限が過ぎてしまうケースもありますので,相続放棄の手続きをする場合は早急に対応する必要があります。
(2)農地を駐車場や賃貸アパート等に転用をするケース
次に考えられるのは相続した農地を農地以外に転用する方法です。
農地の転用とは「土地の種目を農地から宅地へ」変更することです。農地を転用することで当該土地を住宅地として売買したり、農業以外の活用をできるようになります。
市街化区域の第2種農地や第3種農地に分類されている場合,宅地に転用できるので、宅地にしてからさまざまな方法で活用したり売却したりすることが可能です。なお,転用には農業委員会による許可が必要となります。
一方で,農地の場所や地域により条件を満たさない場合、農業委員会からの許可が得られない為転用することは非常に困難となります。転用できるかどうかについて、事前に十分調査をする必要があります。
(3)農地を売却もしくは貸し出すケース
最後に,農地を農地のまま取得し,当該農地を第三者に売却したり,貸し出す方法が考えられます。
しかし,通常の不動産の場合と異なり,個人や法人の方が、耕作目的で農地を売買又は貸借する場合には、一定の要件を満たし、原則として農業委員会の許可を受ける必要があります。許可を受けずにこれらの行為をした場合は無効となります(農地法第3条)
具体的には,相手方が、農地のすべてを効率的に利用すること,必要な農作業に常時従事すること,一定の面積を経営すること,終焉の農地利用に支障がないことなどの要件を充足している必要があります。
4、農地の相続の場合の行政や税務署の手続きについて
次に,農地を相続した場合の行政や税務署の手続きについて説明します。
(1)農業委員会の届け出について
農地を取得したものは,原則としての農地の移転について農地法により農業委員会の許可を受ける必要があります。しかし,遺産分割による農地の取得の場合,例外的に農業委員会の許可は不要とされています。
一方で,平成21年の農地法の改正により,相続等によって農地の権利を取得した場合は,農業委員会への届け出が義務付けられました。
したがって,相続により農地を取得した人は,忘れずに農業委員会への届け出をする必要があります。
なお,農業委員会への届出は相続開始を知ってから10か月以内に行う必要があります。期限を過ぎると「10万円以下の過料」という制裁が加えられる可能性もあるので早めに対応しましょう。
(2)相続税の対応について
農地を相続した場合であっても,通常の相続と同様相続税が発生します。
しかし,農地の相続については,納税猶予の特例が設けられています。
農地の納税猶予の特例とは、農業を営む被相続人から、農業に用いられていた農地等を相続等により取得した農業相続人が、その農地等において農業を引き続き営む場合に、一定の要件のもとに相続税(税金)の納税を猶予する制度です。
農地を用いて農業を営んでいる場合に、到底支払えない高い評価額で相続税(税金)が課税されてしまうと、農業を継続していきたくても相続税(税金)を支払うことができず、農地を売却せざるを得ないという問題が生じてしまいます。このような事態は,国にとっても望ましくないため,このような相続税の猶予制度が設けられました。
具体的な要件としては次のとおりです。
○被相続人の範囲
・死亡の日まで農業を営んでいた者
・生前一括贈与(贈与税納税猶予)をした者
・死亡の日まで特定貸付けを行っていた者
○農業相続人の範囲
・相続税の申告期限までに農業経営を開始し、その後引き続き農業経営を行う者
・生前一括贈与を受けた受贈者
・相続税の申告期限までに特定貸付けを行った者
○特例の対象となる農地等
・被相続人が、農業の用に供していた又は特定貸付けを行っていた農地等で、いずれかに該当するもの
・被相続人から相続により取得した農地等で遺産分割がされているもの
・贈与税納税猶予の対象となっていたもの
・相続の年に被相続人から生前一括贈与を受けたもの
5、農地の相続について弁護士ができること
このように,農地の相続については通常の相続と異なる手続き等が多々あります。また,大前提となる農地を誰が相続するのかという点でも紛争が生じる可能性もあります。
弁護士は,農地の相続手続きについての法的なアドバイスをすることができるとともに,遺産分割協議,税理士と連携しての相続税の申告等も行うことができます。