財産別のひな形が分かる!遺産分割協議書の作り方を弁護士が解説
遺産分割協議書とは、相続人間でおこなった遺産分割協議で合意した内容をまとめた書類です。被相続人が死亡した場合,誰がどのように相続財産を相続するのかを協議する必要があります。遺産分割協議は契約の一種であるため,口頭のみでも成立します。
しかしながら,書面化していない場合,その合意の成立を証明することが困難となるため,事後的な紛争のリスクが生じますし,遺産分割協議後の様々な手続きにおいて手続きが困難となります。
そのため,遺産分割協議がまとまった場合,遺産分割協議書を作成することが一般的です。
目次
遺産分割協議書を作成する時期
遺産分割を行う時期は法律上定められていません。そのため,遺産分割協議書の作成時期についても法律上決まっておらず,いつ作成しても問題はありません。もっとも,相続税との関係では,相続税の申告が必要となる人は、申告期限(相続開始を知った日から10ヶ月以内)までに申告書と共に遺産分割協議書を税務署に提出する必要があります。また,相続放棄の期限についても相続発生を知った日から3カ月以内と定められています。被相続人に借金が残されていたような場合に選択される相続放棄などは、相続発生後3カ月以内に申し出をする必要があります。
これらの手続きとの関係で早期に相続財産の調査や,遺産の分与方法についての話し合いを行うべきなので,なるべく早期に遺産分割協議を行い,遺産分割協議が整い次第,速やかに協議書を作成することが望ましいです。
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遺産分割協議書作成の流れ
遺産分割協議書の作成は,
- ①相続財産の調査
- ②遺産分割の協議
- ③遺産分割協議書の作成
という順番で行われます。
相続財産の調査
遺産分割協議は,被相続人の財産をどのように分配するのかを決める協議なので,まず,被相続人が保有していた財産をすべて洗い出します。
具体的には,預金や不動産などの積極財産や,住宅ローンや借金などの消極財産を洗い出します。遺産分割協議の後で相続財産が新たに発見された場合,再度遺産分割協議を行う必要も出てくるため,漏れのない慎重な調査を行う必要があります。
遺産分割の協議
相続財産の調査が完了したら,相続財産をどのように分配するのかを相続人間で協議します。
協議にあたっては,実際に相続人全員がそろって話し合う必要はなく,メールや電話で行っても問題ありません。
遺産分割協議書の作成
次に、相続人間で協議がまとまったらまとまった内容を遺産分割協議に落とし込みます。
通常は,遺産分割協議書の頭書に,被相続人については最後の住所・氏名・死亡年月日を記載し,共同相続人全員の氏名を記載します。
そして,相続財産の分配方法を記載のうえ,最後に,相続人全員が住所。氏名を記載し,実印で押印し完成させます。
また,遺産分割協議書は相続人の人数分作成し,相続人がそれぞれ保管することになります。
不動産
不動産については,所有権移転登記手続きができるように登記簿謄本に沿って遺産分割協議書上に明確に特定する必要があります。
具体的には一戸建てについては,所在や地番は省略しがちですが省略せずに書き写す必要があります。
例:土地
所 在 岡山県●●区●●町●丁目
地 番 ●●番●
地 目 宅地
地 積 ●●●.●●●㎡
マンションについては,登記簿謄本のとおり,「一棟の建物の表示」「専有部分の建物の表示」「敷地権の表示」に分けて記載をします。
例:1 建物
一棟の建物の表示
所在 岡山県●●区●●町●丁目
建物の名称 ●●
専有部分の建物の表示
家屋番号 ●●町●丁目●番地●の●
建物の名称 1111
種類 居宅
構造 鉄筋コンクリート造3階建
床面積 2階部分 ●.●㎡
敷地権の表示
符号 ●
所在地及び地番 岡山県●●区●●町●丁目●番地●
地目 宅地
地積 ●.●㎡
敷地権の種類 所有権
敷地権の割合 ●●分の●●
共有持分については,共有持分の割合について記載を忘れないようにします。
例:所 在 岡山県●●区●●町●丁目
地 番 ●●番●
地 目 宅地
地 積 ●●●.●●●㎡
持 分 ●分の●
現預金
現金については,「●万円」と記載をします。
預金については,銀行名・支店名・預金の種類・口座番号を誤りなく記載をします。残高については変動の恐れもあるので記載をしないことが一般的です。
例:預貯金
●●銀行 ●●支店 普通預金 口座番号●●●●●●
株式
株式については,証券会社からの通知等を参考にし,銘柄や株式数,商品名口数などにより特定します。評価額については記載する必要はありません。
例:●●電力株式会社 ●●,●●●株
ゴルフ会員権
対象となっているゴルフクラブ名と会員番号等で特定します。
例:●●クラブ株式会社 預託金ゴルフ会員権(書証番号第●●号)
名義財産
名義財産がある場合は,相続人間で話し合いを行い,名義財産が相続財産に含まれることを確認したうえで,同遺産の帰趨について記載します。
1.甲及び乙は,名義人の異なる下記の財産が被相続人の遺産であることを確認する。
記
・●●●●●
・●●●●●
2.甲は,以下の財産を相続する。
・●●●●
債務・葬儀費用等
債務については,遺産分割協議の内容を債権者に対抗できないため,対外的にはあまり意味を持ちませんが,相続人間での協議結果を記載しておくことで,対内的に今後のトラブル防止につながります。
また,葬儀費用についても合わせて記載をしておけば,将来的な紛争防止につながります。
例:被相続人の葬儀費用については,●が負担する。
債権者を●●とする●月●日発生の債務については●が負担する。
代償分割の場合
ある相続財産をある相続人が取得する代わりに,代償金を他の相続人に支払う代償分割を行う場合,代償金として支払う金額,弁済期,「代償金として」という文言を明記します。
例:相続人甲は,前記遺産の取得の代償として,相続人乙に対し,令和●年●月●日限り,金●●万円を支払う。相続人甲が,この支払いを遅滞したときは,乙に対し,支払済みまで年●%の遅延損害金を支払う。
換価分割の場合
遺産の全部または一部を売却し現金化して、そのお金を相続人で分ける換価分割の場合,換価分割であることを明記したうえで,相続人での分割割合を明記します。また,売却手数料などの費用が発生するため,それらを控除した金銭を分割する旨を明記するべきです。
例:相続人甲及び乙は,次の不動産を売却し,その売却益より不動産売却手数料,契約書作成費用,登記手続き費用,譲渡所得税費用等売却に伴う一切の費用を控除した残金を,各2分の1ずつの割合により取得する。
⑴不動産
土地
所 在 岡山県●●区●●町●丁目
地 番 ●●番●
地 目 宅地
地 積 ●●●.●●●㎡
その他に記載したほうが良い内容
お墓等の祭祀を承継者についても遺産分割協議書で定めることが可能です。
遺産分割協議が無効になる場合とは?
次の場合,遺産分割協議書が無効となる可能性があります。
(1)共同相続人の一部を除外して行われた遺産分割協議
すでに,相続人が確定している場合に,特定の相続人を除いて遺産分割協議をした場合はもちろん,被相続人の妻とその子どもたちで遺産分割協議書を作成した後,被相続人に婚外子がいたことが判明した場合も遺産分割協議が無効となります。
(2)精神上の障害により判断能力のない相続人が加わって行われた遺産分割協議
認知症、知的障害、精神障害等の理由により本人に判断能力がない状態で行われた遺産分割協議は,他の相続人に判断能力があっても無効となります。そのような人が相続人にいる場合,成年後見人を選任する必要があります。
(3)遺産分割の意思表示に錯誤があったとき
遺産分割の重要な事実について誤解があった場合には、錯誤による無効が認められる場合があります。
まとめ
遺産分割協議書は,遺産分割協議後の様々な手続きを行う際に必要になる重要な書類となります。遺産分割協議書に不備が見つかった場合,再度相続人間で協議を行い,遺産分割協議書を作成する必要があります。また,遺産分割協議書の前提となる,相続人の特定や相続財産の特定が困難な場合もあります。
遺産分割協議書の作り直しといった事態が生じることを避けるためにも、まずは弁護士など専門家に相談することをおすすめします。