遺産・借金が把握しきれない・・・相続財産調査を弁護士が解説!
相続財産調査とは、相続した財産を調査することです。
被相続人が死亡し,相続が発生した場合,相続放棄や遺産分割協議などの手続きを行わなければなりません。
その前提として,相続人は、これらの相続関連手続きを進めるうえで、被相続人がどのような財産をどれだけ持っていたのかということについて、調査をして把握する必要があります。
目次
なぜ相続財産調査が必要なのか
前述のとおり,相続が発生した場合,被相続人が死亡した場合,相続人は様々な手続きを行う必要があります。そして,どの手続きを選択するのか,どのように手続きを進めていくのかを判断するために,相続財産を把握する必要があります。
①相続の承認又は放棄をするため
まず,相続財産が不明である場合,相続を放棄するのか,又は承認するのかの判断をすることができません。
相続が発生した場合,相続人すべての財産を引き継ぐことになります。相続財産には,現金や預貯金、不動産といったプラスの財産(=積極財産)だけでなく、負債等のマイナスの財産(消極財産)も含まれます。
もし,消極財産を正確に把握しておらず,積極財産の総額よりも消極財産の総額の方が高額な場合に相続を承認してしまうと,相続人が自分の財産で相続債務を弁済しなければならなくなってしまいます。
相続人は,相続の承認のみならず,相続を放棄することも可能です。消極財産の方が積極財産よりも多い場合,相続の放棄を選択すればこのような事態を避けることが可能です。
このように,相続を承認すべきか放棄すべきかの判断をするためには、相続財産調査によって、相続財産の全容を把握することが必要です。
②遺産分割協議のため
相続を承認した場合,被相続人の相続財産をどのように分配するのかを決める,すなわち,遺産分割協議を行う必要があります。
遺産分割は,特定の相続財産が存在することを前提に,同相続財産を誰にどれだけ分配するのかを話し合います。そのため,どれだけ相続財産が存在するのかを正確に把握しておく必要があります。
万が一,遺産分割協議後に新たな相続財産が判明した場合には,改めて同財産の帰趨を話し合うなどの手間が生じます。
このような事態を避けるためにも,相続開始時点で相続財産を正確に把握しておく必要があります。
③相続税の申告のため
遺産を相続した場合,遺産総額が一定額以上である場合に相続税がかかるため,相続が発生した場合に必ずしも相続税が発生するわけではありません。
相続税がかからない場合,当然相続税の申告は不要になります。
このように,相続税申告の要否を判断するためにも相続財産調査は必要となります。
そして,相続税の申告が必要になった場合,「相続税がかかる財産の明細書」の提出が必要となります。当該書類作成の観点からも相続財産調査は必要となります。
相続財産調査を行う時期
これまで述べた通り,相続財産調査は,相続手続きの端緒となるため,相続開始後できるだけ早期に行う事が望ましいです。
また,遅くとも相続開始後3か月以内には開始すべきです。
なぜならば,相続放棄の熟慮期間は相続開始を知った時から3カ月以内とされているためです。
期限が過ぎてしまっても相続放棄が全く認められないわけではありませんが,原則として熟慮期間を過ぎてしまった後には相続放棄は難しいため,熟慮期間内に相続放棄をするか否かを判断できるよう,相続開始後3か月以内には財産調査をすべきです。
調査の対象となる相続財産は?
すでに述べた通り,相続財産はプラスの財産(積極財産),マイナスの財産(消極財産)いずれも含まれます。したがって,調査の際には両財産を調査する必要があります。
①プラスの財産
プラスの財産の例としては,
・不動産(土地、建物、山林等)
・不動産上の権利(借地権等)
・現金、預貯金
・有価証券(株式、社債、債券等)
・自動車、家具、備品,骨董品、貴金属などの動産
・貸付金、売掛金などの債権
・ゴルフ会員権、リゾート会員権など
・著作権、特許権、実用新案、意匠権、商標権など
が考えられます。
②マイナスの財産
マイナスの財産の例としては,
・借金,保証債務など
・未払いの税金、固定資産税等の公租公課
・敷金返還債務など
が考えられます。
財産調査の方法
では、財産調査の対象となる財産として、どのような財産が対象になってくるのでしょうか。調査する方法含めて説明したいと思います。
①現金・預貯金
現金については,金庫等に保管してあることも多いため,それらの場所を調査することになります。預金から不自然に高額な引出しがある場合,引き出したお金を現金として保管している可能性もあるため,そのような引出しが手掛かりになる場合があります。
預金については,口座があることが確実な金融機関については,「全店照会」をかけ,その銀行の全支店について調査をします。
検討がつかない場合は,郵便物,生前の確定申告書等を調べるなどして検討をつける必要があります。
②不動産
不動産は,権利証や固定資産税課税通知書(納付書)、名寄帳(市町村役場で発行可)などから調査します。
③動産
動産は財産価値がないものが多く,調査対象とならない場合も多いです。しかし,貴金属や骨とう品には財産価値がある場合もあるため,これらの動産を探し出す必要があります。不動産と異なり調査が難しいため,被相続人の生前の発言等から目星をつけて調査することになります。
④生命保険
自宅に届いている書類等を手掛かりに調査をすることになります。
⑤株式などの有価証券
上場企業株等については,証券保管振替機構に登録済み加入者情報の開示請求をします。ほかにも,自宅に届いている書面から判明する場合もあります。
⑥抵当権・借地権・賃借権
これらについては,定期的に債務者からの支払いがなされているはずなので,預金口座の取引履歴等から判明する場合があります。
⑦負債(借金)
個人借入と闇金融以外については,全国銀行個人信用情報センター,JICC,CIC等の機関で調査が可能です。
相続財産の価値を評価する
相続財産の調査が完了した場合,各相続財産の評価をします。
現預金については,その必要はありませんが,不動産,動産,有価証券等については,評価額を決定する必要があります。
共同相続人で合意できる場合は合意できる価格で評価すれば足りますが,争いがある場合,一定の基準により評価する必要があります。
不動産については,路線価・固定資産税評価額等を参考に価格を決めたり,複数の業者の無料査定書を提出しその中間値を持って価格を合意する等の方法があります。
有価証券については,上場株式の場合は取引額をベースに評価をします。
閉鎖会社の株式については,貸借対照表をもとに計算をする方法があります。
財産目録の作成
以上の手続きが完了すると,財産目録を作成します。
まとめ
相続財産調査は,相続を承認するか放棄するかの判断資料になるとともに,遺産分割協議でも調査により判明した相続財産をもとに協議を行うなど,非常に重要な意味を持ちます。
相続遺産が少なかったり,相続人が被相続人の財産を十分把握している場合はよいですが,相続財産が多岐にわたっていたり,相続人が被相続人と疎遠であり十分財産を把握していない場合には,調査が困難となる場合が少なくありません。
そして,調査が不十分であったり,相続財産ではない財産を相続財産として遺産分割をしていた場合,遺産分割協議が無駄になる可能性もあります。
相続財産調査を正確に行い,その後の手続きを意味のあるものにするためにも,弁護士への相談をお勧めします。