現金手渡しって生前贈与と認められる?生前贈与について岡山の弁護士が解説
生前贈与とは、個人が生きているうちに「贈与」という形で、財産を子供や孫に引き継ぐことです。
相続税の節税対策のイメージが強くありますが、納税資金の確保や財産の有効活用という面から見ても効果的です。
目次
生前贈与の対象となるもの
生前贈与の対象になるものには、「現金」「預貯金」「不動産(建物・不動産)」「有価証券」などが挙げられます。これらに加えて、宝石や絵画などの動産も生前贈与の対象に含まれます。
また、後々現金として使える形で贈与しておきたい場合には、生命保険契約を利用して生前贈与を行うという方法もあります。
生前贈与の対象とならないもの
生前贈与の対象に含まれないものは、「寄付金」「墓所」「公益事業用財団」などが挙げられます。これらの共通点は、社会通念上、相続の対象とすべきではないと考えられている財産であるということです。
また、個人間のお小遣いやお年玉は、年間110万円以下であれば生前贈与の対象には含まれません。
相続と贈与の違いは?
相続と贈与は「誰かに財産を与える」と広義的な意味は同じですが、前提となる考え方は全く異なります。それぞれの違いについて説明します。
財産を与えるタイミング
相続と贈与の最大の違いは、財産を譲渡するタイミングです。相続は、財産の所有者が亡くなることによって相続人が財産を引き継ぐことです。
対して、贈与は財産の所有者が生きている間に、相続人が財産を引き継ぐことを指します。
つまり、財産の所有者が生きている場合は「贈与」を、財産の所有者が既に亡くなっている場合は「相続」が使われます。
財産を与える相手
贈与の場合、財産を引き継がせたい人を自由に選ぶことができるのに対して、相続の場合、親族を対象とした法定相続人に引き継がれることが基本です。
法定相続人は、亡くなった方の配偶者や子供などの親族で構成されることが一般的です。
相続税と贈与税では税率や控除額が異なる
相続税と贈与税では、基礎控除額が異なります。基礎控除とは、税金の徴収範囲ではないということです。つまり、基礎控除額を超えると課税対象になるということです。
贈与税
基礎控除額 110万円
最高税率 (贈与総額が3,000万円以上の場合)55%
最低税率 (200万円以下の場合)10%
相続税
基礎控除額 3,000万円+法定相続人数×600万円
最高税率 (相続総額が6億円以上の場合)55%
最低税率 (1,000万円以下の場合)10%
贈与税のほうが課税される最低限度額が低く設定され、税の累進性も相続税よりも急になっています。そのため、基礎控除額を超えて贈与や相続を行った場合にかかる税金は、贈与税の方が高くなります。
相続税は財産を相続する際に一括課税されますが、贈与税は毎年110万円の基礎控除が設定されています。そのため、将来相続する財産が基礎控除額を超えていると想定される場合は、なるべく早い段階から計画的に生前贈与を実施していくことで、かなりの金額を節税することができるでしょう。
相続税の算出方法
相続税を算出するためには、遺産総額や法定相続人の数を用いて算出します。相続人が課税遺産総額の法定相続分を相続するとした場合、『相続税(各人分)=課税遺産総額×法定相続分×税率-控除額』で算出されます。
上記の計算式によって算出された各人の相続税額を合算したものが相続税の合計金額です。
贈与税の算出方法
贈与税の基礎控除額は年間110万円で、複数人から贈与を受けた場合はその合計金額が110万円以下であれば税金は徴収されません。
贈与税の計算式は、『贈与税=(贈与を受けた財産の合計-基礎控除額110万円)×左記の額に対する税率』で算出されます。
生前贈与のメリット
相続税の節税対策として生前贈与を検討されている方は多いのではないのでしょうか。実際に生前贈与を行った場合、どのようなメリットがあるのか解説していきます。
きちんと制度を理解して活用すれば大きな節税効果が見込める
贈与税の課税システムには、「相続時精算課税制度」「暦年贈与」の2つに分けられます。相続税精算課税制度を選択した場合、対象となる財産所持者からの贈与は総額2,500万円以内であれば課税対象にはなりません。
ただし、1回でもこの制度を選択した場合、暦年贈与を選択することができなくなるため、注意が必要です。
対して、暦年贈与を選択した場合は年間110万円まで贈与税は課税されません。そのため、「生前贈与を長期的に行っていくことを検討している」という方におすすめです。
「何が課税対象になるのか」「どのような条件で非課税が適用されるのか」と制度をきちんと理解し、ご自身の状況により最適な方法を選びましょう。
財産を渡す時期や相手を自由に選べる
生前贈与は、誰に何を贈与するのか、贈与時期をいつにするのかということを自由に選ぶことができます。そのため、有価証券や不動産など、価格が変動するものを贈与したい場合、生前贈与をすることで、高い節税効果を得られるでしょう
財産の所有者が亡くなったことによる相続の場合、財産を引き継ぐ相手は親族で構成された法定相続人に限定されます。対して生前贈与は、財産を引き継ぐ相手を自由に選択することができるのが特徴です。
そのため、生前贈与は、財産所持者が財産を引き継ぎたいと思う相手に、確実に財産を引き継ぐことができます。
生前贈与のデメリット
生前贈与のメリットについて先述しましたが、生前贈与のデメリットはあるのでしょうか。
控除の範囲を超えてしまうと相続税よりも贈与税の方が高くなってしまう
生前贈与と相続税の違いは?でもお伝えしましたが、贈与税は累進割合が高いため、基礎控除額を超える多額の贈与を行った場合、結果的に相続税よりも贈与税のほうが高くなってしまいます。
贈与税は贈与額が年間110万円以下であれば課税対象にはなりません。だからといって、「毎年110万円ずつ贈与すれば問題ない」という認識は間違いです。
例えば、500万円の財産を、毎年同じ月に100万円ずつ5年間贈与した場合、税務署に定期贈与と見做されて、基礎控除額を引いた390万円分に対する贈与税が課せられる可能性があります。
この生前贈与の方法では、たまたま毎年贈与が発生したのではなく、予め合計500万円を贈与する取り決めがあり、毎年100万円ずつに分割して贈与していたと判断できるからです。
毎年の贈与が定期贈与とみなされないためには、贈与する金額や時期を変動させるなど、それぞれの贈与が関連のない単発のものであると見做されるように、贈与の仕方を工夫する必要があります。
現金の手渡しの際は贈与契約書を作成しましょう
生前贈与を成立させるためには、財産の所有者と受取人の意思表示が必要です。
そのため、受取人が何かしらの財産を受け取っていたとしても、その財産が生前贈与によって取得したものであるという認識がなければ、生前贈与は成立しません。
生前贈与を行う際は、贈与契約書を作成することで立証することができます。特に、財産を引き渡す際に「現金の手渡し」「名義預金」などは生前贈与として認められず、税務署から否認されることが多いため、必ず贈与契約書を作成しましょう。
贈与契約書とは、贈与を行ったという事実を客観的な証拠として残しておくための書類です。贈与契約書に記載する内容は、「贈与者と受取人」「贈与対象の財産」「贈与対象の金額」「贈与を行った日付」などが一般的です。
贈与者と受取人の間で作成できますが、より客観性をもたせて証拠能力を高めたい場合は、公正証書にしておきましょう。
死亡時に相続が戻る可能性がある
財産の所有者が亡くなる3年以内に贈与された財産は、受取人に対して相続税が課税されます。
また、既に贈与税を支払っている場合は、相続税が課税されることによって、贈与税と相続税の二重課税となってしまいます。そのため、相続税の納付額から既に支払った贈与税を、相続税として納めることになっています。
しかし、既に支払った贈与税の金額のほうが大きかったとしても、差額の贈与税は返金されないため、注意が必要です。
生前贈与の方法と節税のための注意点
相続税が増税対象となったことで、相続税の節税対策への関心が高まっているのではないのでしょうか。
生前贈与を行う方法として、「暦年課税制度」「相続税精算課税制度」のどちらかを選択することになります。どちらの贈与方法を利用するべきかについては、財産の状況や親族の構成などによって異なります。
そのため、それぞれの制度にどのような違いがあるのかを理解し、自らの状況により適した制度を選ぶようにしましょう。
暦年課税制度
暦年課税制度とは、毎年1月1日~12月31日の1年間に財産を贈与した場合、110万円以下の贈与であれば課税対象外となるという特性を活かした節税制度です。
暦年課税の対象者は、財産の所有者と受取人双方に何かしらの制限は設けられていないため、生前贈与を希望する全ての人が利用することができます。
また、暦年課税の対象物にも制限はなく、現金や有価証券、不動産などのあらゆる財産の贈与を行うことができます。
生前贈与のデメリットでもお伝えしましたが、暦年課税制度で生前贈与を行った場合、財産の所有者が亡くなる3年以内に贈与を受けたものは、すべて相続税の課税対象となります。そのため、暦年課税制度の利用を検討している場合は、どのくらいの財産を何年間で贈与するのかという計画を立て、なるべく早めに開始するようにしましょう。
控除額を超えた場合は税務署に申告する
暦年課税制度を利用する場合、1年間に贈与を受けた財産の合計が110万円以下であれば、贈与税はかかりません。しかし、110万円を超えた場合は、税務署に対して贈与税の申告を行い、税金を納める必要があります。
暦年課税制度の贈与税の計算方法は、(贈与を受けた財産の合計-基礎控除額110万円)×左記の額に対する税率=贈与税です。
また、生前贈与を行っている場合、仮に基礎控除額の範囲内であっても、「実際に贈与が行われたのか」「過少申告しているのでは」と疑いをかけられ、税務調査をされることがあります。その際に、暦年課税制度を利用して110万円以下の贈与を行ったことを証明できるよう、あらかじめ「贈与契約書」を作成しておくことをおすすめします。
相続税精算課税制度
相続税精算課税制度とは、生前贈与のうち財産の2,500万円までの特別控除が認められる制度です。
また、一度の贈与で2,500万円の枠をすべて使う必要はなく、数年に渡って贈与を行っても問題ありません。
贈与の総額が2,500万円を超えた場合は、一律20%の贈与税が適用されます。そのため、2,500万円を超えた場合であっても、贈与税は一律のため、一般的な贈与税の税率よりも低いことがメリットとして挙げられます。
しかし、相続税精算課税制度は誰でも利用できるというわけではありません。適用対象となるのは、60歳以上の父母もしくは祖父母が、20歳以上の子供もしくは孫に限定されます。
そのため、相続人を自由に選択することができる暦年贈与に対して、相続税精算課税制度は相続人が直系親族に限定されるということが大きな違いです。
その他非課税特例
生前贈与を実施する方法は「暦年贈与」や「相続税精算課税制度」の2つだけではありません。状況別に贈与税を非課税にする方法をご紹介します。
住宅取得資金贈与制度
住宅取得資金贈与制度とは、父母もしくは祖父母か子供や孫に対して住宅の購入や増改築を目的とした資金贈与による非課税制度です。
この非課税制度が適用される条件は、「贈与の総額が2,000万円以下」、「受取人である子供もしくは孫が20歳以上」のどちらも満たしていること。
また、相続税精算課税制度を併用することができるため、贈与税の非課税枠をさらに拡大させることができます。
教育資金贈与制度
教育資金贈与制度とは、父母もしくは祖父母が30歳未満の子供や孫に対して教育資金贈与による非課税制度です。
教育資金贈与制度の適用条件は、「受取人1人あたり1,500万円以下」、「受取人である子供もしくは孫が30歳未満」のいずれも満たしていることです。
1,500万円の教育資金を一括で贈与した場合であっても、上記の条件を満たしていれば贈与税は適用されません。
また、贈与者が死亡3年以内に贈与された場合であっても生前贈与加算の適用がないため、「相続税対策を検討しているけど贈与者が高齢」という場合に最適です。
配偶者控除制度
配偶者控除制度とは、「住居用の不動産」「住居用の不動産の購入資金」のどちらかを配偶者に贈与した場合に金額が2,000万円以下であれば非課税が適用される制度です。
配偶者控除が適用される条件は、「贈与の総額が2,000万円以下」「婚姻期間が20年以上」の条件をどちらも満たしている必要があります。
また、配偶者控除制度の適用を希望する場合は、税務署への申告が必要になります。申告を怠ってしまうと、多額の贈与税を支払うことになるため注意しましょう。
相続時精算課税
相続税精算課税とは、60歳以上の父母または祖父母から20歳以上の子供や孫へ、将来相続予定の財産を先渡しする方法です。
贈与される2,500万円まで非課税となり、相続が発生した段階で先渡ししていた財産に相続税が発生する仕組みです。
贈与契約書を活用した生前贈与の流れ
生前贈与の計画を立てる
生前贈与を行うことが決定したら、まず「誰に、何を、いつまでに贈与するのか」ということを決めます。
贈与する財産によっては、非課税制度が適用されることがあるため、事前に確認しておきましょう。
贈与契約書を作成し、贈与者と相続人のそれぞれが捺印を行う
生前贈与は、贈与者が一方的に受取人に対して贈与を行うことはできません。受取人の合意を得た上で、贈与契約書を作成し、それぞれの捺印が必要に。
取り決めた内容を贈与契約書に記録しておくことで、税務署への申告の際など後々の管理に役立たせることができるため、贈与契約書の作成は必須です。
財産の引き渡しを行う
贈与者と受取人の間で贈与内容の合意が完了したら、実際に財産の引き渡しを行います。現金の相続の際は、贈与の記録を残しておく必要があるため、手渡しではなく銀行口座への振り込みが良いでしょう。
また、不動産を贈与する場合は、法務局への名義変更の届出を行い、贈与者と受取人双方が名義変更に関する書類を作成する必要があります。
税務署に対して贈与税を申告し納付する
贈与税の申告は、受け取った財産の合計金額が110万円以上である場合、贈与税の申告が必要になります。
贈与後の税金申告はすべて受取人が行います。
生前贈与は節税対策だけでなく、財産の有効活用にも効果的
生前贈与は、節税対策だけでなく、納税資金の確保や財産の有効活用としても非常に効果的です。
贈与税は相続税よりも税率が高いため、思いつきで生前贈与を行うと場合によっては多額の税金を支払うことになるため、注意が必要です。そのため、生前贈与は計画的に行うことが重要でしょう。
また、「生前贈与が認められなかった」等のアクシデントを未然に防ぐには贈与契約書が有効です。弁護士は様々な紛争に関わってきた経験があるので、最適な贈与契約書の作成をサポートすることが可能です。
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